果てしない青のために(Pour le bleu sans fin)

青山勇樹:詩人。名古屋市在住。大学の教員として教育や研究に励みながら、詩を書いています。もともとは、高等学校の国語科の教員でした。31年間の高校勤務のうち、後半の14年間は教頭として学校の管理にあたりました。現在、大学では、言語と表現、日本語表現、日本の文学などの講義を担当しています。あなたの心に、言の葉を揺らす優しい風が届けられますように。光と戯れる言葉のきらめきが、あなたの心にもあふれますように。仕事の依頼などはメールで ⇨ aoyamayuki1963-poetry@yahoo.co.jp

詩集『リエゾン LIAISON』より No.29「レコード」

レコード 溝のなかであなたはまだ生きていてあの頃よく歌ってくれたジャズのナンバーをちょっとだけよそ行きに歌っている 黒く磨かれたピアノの天板にいつもあなたの横顔がゆれていてそうしているのが癖だった指先でくゆらせている煙草その銘柄もしっかり覚…

詩集『リエゾン LIAISON』より No.28「埠頭」

埠頭 風は渡っていったそれきり もうこれ以上ここで旋律になって歌いつづけられないから預けてあった靴と楽譜をかえしてくださいそういってあなたはでていった真夜中の扉をあけ匂い立つ朝霧の彼方へさよならそのとき叫んだあなたのみずいろがぼくのなかでひ…

詩集『リエゾン LIAISON』より No.27「未遂」

未遂 その街角をまがってまっすぐに行けば青空につきあたるからその城壁に沿って歩いてゆけばかならず青空にゆきつくからそう教えてくれた朱鷺色の髪の少女もウェディング・ドレスの裾を気にしながらいつだったか飛行場から翔びたっていった なにをそんなふ…

詩集『リエゾン LIAISON』より No.26「薄明」

薄明 からんと晴れたぼくの胸のひろがりにそびえるひとつの梢があるその先にはいつからかちいさくあおざめた矢印があって 風が きまって吹いているので方角はいつも行方知れずだどこかで翼のはばたく気配がしてふりむけば黒く装ったあなたが横顔をみせて歩い…

詩集『リエゾン LIAISON』より No.25「扉をあけてでてゆけば突然の真昼」

扉をあけてでてゆけば突然の真昼 とりあえず〈とりあえず〉と書いてみてそこからはじまる物語もあるにちがいないけれどもこうして待ちつづけてはいてもあいかわらず空はまぶしい青でそのうえ気温は三十度を越えようとしている夏のはじまりひろがりはひろがり…

詩集『リエゾン LIAISON』より No.24「虹」

虹 殺人現場の隣でバッハのパッサカリアを聞きながらそのひとと午後のお茶を飲んでいたとはじまるひとつの物語を燃やしてしまったのよ書きあげてからあなたのそんなおしゃべりを聞きながらこうして紅茶を飲んでいるいま流れているのは誰のソナタだろう暖炉に…

詩集『リエゾン LIAISON』より No.23「流れる」

流れる 流れるものは水だろうか時間だろうかどこかから来てどこかへと向けて流れているものはいつもひとではなかったか 岸辺でいつまでも見ているので河は流れてゆくのだろう見つめられることに耐えきれずやがて去るひとをいつくしみながら 朝刊を積みあげて…

詩集『リエゾン LIAISON』より No.22「メロディー」

メロディー あなたのくちびるからいまメロディーがあふれはじめる童歌でも流行歌でもなくあなたがうたうのはまぶしいひとつのメロディー 私の心のなかにもなりつづけているメロディーがあるなにげなくくちずさんでみるとそれはとてもなつかしい たとえば花び…

詩集『リエゾン LIAISON』より 連作「電話」

連作「電話」https://m.youtube.com/channel/UC4WIuglkD0dvVaWQcUahAZg [ 電話a ]凍った空の低いあたり今夜もいくつものあつい声がひとりからひとりへと駆けるその綾のかげを ひっそりさよならのさけびがとどくあなたのすべてが声になってたったいま私の肩…

詩集『リエゾン LIAISON』より No.21「電話(4-4 電話d)」

「電話(4-4 電話d)」 朝も午後もあなたは不在で私のみた夢について聞かせてあげることができない九千五百七十回めの呼出音がいまあなたの部屋にとどくそれともひょっとして九千七百五十回めだったかしら暮れなずむ海は受話器のなかに満ちてきてやがて私は…

詩集『リエゾン LIAISON』より No.20「電話(4-3 電話c)」

電話(4-3 電話c) 〈もしもし〉が〈申します〉ではなく〈もしかしたら〉と聞こえる昼さがり盲いた受話器の瞼の奥にはとびちる紅が貼りついて〈もしもし〉電話は追憶をたどりはじめるいつまでもつづく呼出音はどこへむかっているのだろうそんなとき電話も夢…

詩集『リエゾン LIAISON』より No.19「電話(4-2 電話b)」

電話(4-2 電話b) あなたと別れたそんな夢からめざめた朝あなたの夢にみられているかすかな不安に気づく雨あがりの庭吹きわたる風がほのかな青に染まりはじめたからだろうかどこまでが夢をみている私でどこからがあなたの夢のなかかこのことについて誰が語…

📃 お知らせ 📃 〈noteでの詩の紹介〉「電話(4-1 電話a)」

noteで詩を紹介しました #note 凍った空の低いあたり今夜もいくつものあつい声がひとりからひとりへと駆けるその綾のかげを ひっそりさよならのさけびがとどくあなたのすべてが声になってたったいま私の肩のうえに重く——不意にとぎれた受話器から発信音だけ…

詩集『リエゾン LIAISON』より No.18「電話(4-1 電話a)」

電話(4-1 電話a) 凍った空の低いあたり今夜もいくつものあつい声がひとりからひとりへと駆けるその綾のかげを ひっそりさよならのさけびがとどくあなたのすべてが声になってたったいま私の肩のうえに重く——不意にとぎれた受話器から発信音だけがつづいてい…

詩集『リエゾン LIAISON』より No.17「卒業」

卒業 きょうの言葉はきょうのうちに見えない風の粒々になっていつか吹きぬけてゆくはずなのに静まりかえった青に染められさよならの声がたちどまる 記念写真の隅で息をこらし時計をとめてまばたきをするすべてはその一瞬に思い出という装いをはじめるだから…

詩集『リエゾン LIAISON』より No.16 「種子」

種子 かすかなうごめきのほかにはじめてのいのちはまだなにもかたろうとはしないけれどもまもなくはじけてひらきこぼれあふれるのだあさがそこここにみちてひろがりみずのおもてをあざやかにながれてあかるいさけびをあげはじめるときに そのかたくとざされ…

🎍 年末・年始 Special Week 7 🎍 〈未発表詩 4〉 📖 六月の鯨 📖

六月の鯨 真夜中の電話ボックスに閉じこもって六月の鯨は華やかな夢をみている外れた受話器からこぼれる発信音を枕にガラスの向こうに敷きつめられた紫陽花とどうにかしておしゃべりできないかと 「もしもし」不意に受話器が話しはじめる白く濁った気泡がわ…

🎍 年末・年始 Special Week 6 🎍 〈未発表詩 3〉 📖 通りゃんせ 📖

通りゃんせ 硝子のコップに小さなひび割れを見つけた朝庭からかすかな鳥の囀りが聞こえた気がするありふれた一日の始まりにある僅かな違和感ひょっとしたらこれは他人の記憶ではないか私ではない私がこっそりのぞいているのかも なぜいつも私のまわりだけ雨…

🎍 年末・年始 Special Week 5 🎍 〈未発表詩 2〉 📖 そして冬がはじまる 📖

そして冬がはじまる 降りしきる雪を救急車のサイレンが切り裂くクリスマスキャロルが家路への足を急がせる切ないめまいのなか遠くで誰かが呼んでいる助けてほしいときれぎれの声が聞こえてくるエナメルのコートが肩をぶつけて行き過ぎる 「それから」と投げ…

🎍 年末・年始 Special Week 4 🎍 〈未発表詩 1〉 📖 涙 📖

涙 見開いた瞳からこぼれ落ちる涙が眩しく光る声もたてず表情も変えずあなたが泣いている湿った心のなかに激しい嵐が吹き荒れても瞬きもしないで空の青だけを見つめている私は傍らで黙ったままあなたを見つめている 瞳いっぱいにあふれた水に世界が逆さに映…

‪詩集『リエゾン LIAISON』より No.09〜15「七つのかたち」

「七つのかたち」 1 紅一点 ひとりでいるときはとてもうつくしいけれどもふたりでいるときのほうがあなたはもっときらめいてみえるたくさんのおとこたちのなかではあなたはほとんどまぶしさにちかいささやかなねたみとあこがれをいだいてだからわたしはおと…

‪詩集『リエゾン LIAISON』より No.15「七つのかたち(7-7 波紋)」

さえざえとした水鏡にひとときいくつものかたちがよぎっていったがそのものたちを正しく呼ぶことができないふいに見つめるまなざしがゆらぐと行方知れずのおもいが同心円をえがきだすかすかなみなわがしずけさにそよいでまばたきよりもひそやかに

🎄 Christmas Eve Special 🎄   📖 華やかな逡巡 📖

Christmas Eve Special ‪ 華やかな逡巡 ‬ 驚いたような時雨が一瞬にして駆け抜けたあとなだらかに伸びる坂道を夕陽のなかへ降りていく金色に染められた雫が枝先からこぼれ落ちてくるたくさんのさようならが逆光を受けて眩しい影となる行き着く場所があるか…

‪詩集『リエゾン LIAISON』より No.14「七つのかたち(7-6 コップ)」

あわせた掌ですくうよりもひかるガラスの器で飲みたい水もある水を飲むためにではなくながめていたいだけのグラスもある飲むためにでもながめるためにでもなくたかぶる感情で砕いてしまってからしめやかに思い浮かべる輝きもある

‪詩集『リエゾン LIAISON』より No.13「七つのかたち(7-5 死角)」

誰もが心にひとつの沈黙を宿しているそこではあらゆるものが収斂しもはや弾丸ですらそれを射ぬくことができないかくれることで見えなくなるものがあればかくすことで見えてくるものもあるだろうふとあおぎみれば星空がかたむいてたまらなくひとの声が聞きた…

詩集『リエゾン LIAISON』より No.12 「七つのかたち(7-4 覗き穴)」

丸でも四角でもまして楔形でもなくしいていえば疵口にちかい」あるときは痛みを思いださせる印でありあるときは秘密が窺えるかもしれないただときとして穴のむこうとこちらで覗き込む瞳がぶつかることもあるがそのときは黙ってうつむくしかない

詩集『リエゾン LIAISON』より No.11 「七つのかたち(7-3 のっぺらぼう)」

のっぺらぼうは瞳がなかったのでのっぺらぽうは泣くことができなかったのっぺらぼうは口がなかったのでのっぺらぼうはしゃべることができなかったのっぺらぼうは誰の子かわからなかったのでへのへのもへじを書いてもらったらのっぺらぼうは音楽が聞きたいと…

‪詩集『リエゾン LIAISON』より No.10‬ ‪「七つのかたち(7-2 五線)」

書き込まれた記号ばかりなのに聞こえない音に満ちあふれていてプレスティッシモのパッセージからはのぼりつめる小鳥のさえずりゲネラル・パウゼにはふき渡るあおい風ときには緩やかにときには華やかに五本の線で綴じられた風景がある

‪詩集『リエゾン LIAISON』より No.08‬ ‪「七つのかたち(7-1 紅一点)」

七つのかたち(7-1 紅一点) ひとりでいるときはとてもうつくしいけれどもふたりでいるときのほうがあなたはもっときらめいてみえるたくさんのおとこたちのなかではあなたはほとんどまぶしさにちかいささやかなねたみとあこがれをいだいてだからわたしはおと…

No.08 pickup 〜詩のワンフレーズを写真に添えて〜