果てしない青のために

あなたの心に、言の葉を揺らす優しい風が届きますように。

愛の礫ALIVE1

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❁⃘ 01 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

引き潮が置き去りにした泡が弾けるたび
遠浅の夢が少しずつ覚めていく
黙ったまま降りしきる白い雨の朝
遥か遠い銀河からやって来たような気がして
あなたの名前をこっそり呼んでみる
くりかえしくりかえし呼んでみる


❁⃘ 02 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

飲み残したコーヒーのように
「それから」とつぶやいたまま
あなたは席を立とうとする
遠くで静かに海がひかる午後
あなたの指先ばかりを見つめている


❁⃘ 03✩*̩̩̩̥✿*⁎

麦藁帽子のへこみに置き去られているのは
背中に広がる潮の香りの日焼けの跡と
ラズベリーアイスクリームの夕焼け
それから帰り道で拾った貝殻の奥で
いつまでもこだまするさようならの声


❁⃘ 04 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

あなたのひろげた海の底で
うずくまる一粒の真珠になりたい
寄せては返す波の鼓動と
潮の香りを養いとして
透きとおるほどの青に染められ
いつまでも眠る真珠になりたい


❁⃘ 05 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

心のまんなかに土砂降りの今日があって
それなのにいつも傘が見あたらない
水しぶきを避けて雨やどりしながら
遠まわりをしているうちに迷子になる
湯気がたちのぼるほどずぶ濡れてみたい
ときに訳もなくそう思うこともあるが
すべての名を叫べる夜明けはまだ来ない


❁⃘ 06 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

どこかで
硝子の割れる音が聞こえた
私のあげた悲鳴だったかもしれない
指先に赤が膨れあがって
後から痛みが追いついてくる
どうにかして
傷つく前に
痛みを知る方法はないかしら
絆創膏にできた染みが
問いかけてくる


❁⃘ 07 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

あの日
校舎の隅に落ちていた陽だまりに
消えないで
と叫んだことは忘れてしまったのに
咲いていたタンポポの鮮やかな黄が
いきなりよみがえることがある
そのまぶしさの意味はわからないが
あのときの私は
いまもきっとそこにいる


❁⃘ 08 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

いまここにいる
そのことだけが
すべてだった子どもの頃のように
一日の終わり
暮れていく今日のせつなさに
声をあげて泣くことができたなら
どんなにいいだろう
美しい夕焼けが
涙に溶けて
きっと
ひかる永遠になる


❁⃘ 09 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

なにもかも否定したいのは
自分自身を
肯定したいからにほかならない
あらゆるものが美しく
みずみずしいいのちにあふれ
まぶしくて見つめられない
きらやかなすべてに嫉妬する
両腕をひろげ
こんなにも叫んでいるのに


❁⃘ 10 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

後ろ向きに座った電車のように
遠ざかる昨日は見えているのに
明日はいきなりやってくる
だから訳もなく
途中下車をして
止まった風景のなか
深呼吸したいこともある


❁⃘ 11 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

いつかみた夢のことを
聞かせてあげようとしたのに
いつのまにか夢のつづきをみている
それとも
話をする夢をみているのだろうか
夢の途中でふいに目覚めて
夢について話そうとして
どこにもあなたがいないと気がつく


❁⃘ 12 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

ヒエログリフのような
恋がしたいとあなたは言った
五千年ほど眠りつづけたら
ようやく誰かが読み解いてくれる
そんな恋がしたいと言った
夏の終わり
珈琲店の窓辺の席で
遠くに光る海を見つめながら


❁⃘ 13 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

あまりにもたくさんの人がいるので
ひとりになりたくてたまらない
そうは言っても
この星にひとり残されたなら
だれかに会いたくてたまらないだろう
おはよう
を交わす相手がいない朝
あなたの名前をつぶやいてみる


❁⃘ 14 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

欠けているところになりたいと
片目をつぶって腕を伸ばし
三日月をつま弾いていた左手の
綺麗な指先は覚えているけれど
それからあなたはどうしたっけ
帰り道
後ろからついてくるのは
ただまぶしすぎる満月


❁⃘ 15✩*̩̩̩̥✿*⁎

梅雨の晴れ間の飛行機雲に
何度もト音記号を描きながら
まぶしそうに鼻唄を歌っている
それなのに
どんな曲かは教えてくれない
こぼれるような笑顔で
バルコニーから身を乗り出し
青に染まろうとでもするように


❁⃘ 16 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

美しい朝がくるたび
だれかが待っている気がする
それなのに
顔も名前も思い出せない
たしかに待っているはずなのに
わからない
あふれるほどまぶしく
かぐわしい光を浴びながら
かなしい予感を
ただ抱きしめている


❁⃘ 17 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

影ひとつない昼さがり
黄色のパステルで
目も耳も塗りつぶされ
ひまわり畑で迷子になる
風も時間も止まったまま
きっとこうしてあともう千年
真夏の光に貫かれたら
あなたの愛に届くかしら


❁⃘ 18 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

なにも持たずに生まれてきたのに
大切なものが多すぎる
いっそすべてを捨て去ってみれば
むきだしになったいのちこそ
たったひとつのかけがえのないもの
いのちのかたちで生まれてきて
ただいのちとして終わりを迎える


❁⃘ 19 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

おやすみなさいのあと
目を閉じれば
ひとりきりだから
おはようからおやすみまでに
生まれた物語をできるだけ
たくさん抱えて眠りたい
おやすみなさいを言ったひとに
おはようを告げた朝
きのう見た夢を
話してあげたい


❁⃘ 20 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

いつかふたりで並んだまま
星座になることができたら
一晩中あなたといられる
夜空のなかで
いちばん小さな星座になって
ひっそりと光っていよう
それまでは
あなたが手を離しませんように
天の川で溺れませんように


❁⃘ 21 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

雨あがりの晴れた日
水たまりをのぞいてはいけない
深い青に吸い込まれ
戻ってこられなくなる
風もない昼さがり
澄んだ水たまりに
止まない波紋を見たことはないか
そこにいた誰かが
ふっといなくなってしまったあとで


❁⃘ 22 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

影踏みをしていると
だれのものでもない影を
踏んでしまうことがある
目隠しが外れた鬼のように
照れくさそうに
背中を丸めてうずくまり
足の裏をすり抜ける
草叢に消えるとき
さみしげに
ちらりとふりかえりながら


❁⃘ 23 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

あなたを抱きしめていると
なぜ生まれてきたのか
わかったような気がする
すべてのものは
とうに用意されていて
ひとつひとつはじめから
名づけていけばいいのだと
私が私であるために
私とあなたがここにいるために


❁⃘ 24 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

たくさんの樹のなかにいると
光合成ができるような気がする
指先まで伸ばして腕をかかげ
降りそそぐ木洩れ陽にふれる
光だけで生きられたら
どんなにいいだろう
静かに目を閉じたまま
ずっと風の歌を聴いていられる


❁⃘ 25 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

ありふれた一日のなかに
かけがえのない物語がある
たわいないおしゃべりや
ふとしたしぐさ
木洩れ陽のきらめき
吹きわたる風
なんでもないことが
これほどまでに愛おしい
ひとつぶの涙
それから
あなたの手のぬくもり


❁⃘ 26 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

教えてよ
どうかその歌を
あなたが口ずさむ
愛の歌
きっと
はるかな昔から
伝えられたメロディ
胸の鼓動とともに
ちいさくたしかに
いのちに刻まれ
時を越える
るるりららるる
星座を吹きぬけていく
風のような歌を


❁⃘ 27 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

訳もなく涙があふれるのは
すべてがあまりにも美しすぎて
どこにいればいいのか
わからないからかもしれない
たったひとつのいのちだけを
握りしめて生まれたように
もういちどひとりきり
激しい雨に打たれてみたい


❁⃘ 28 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

舞いあがった紙飛行機が
枝にかかったまま
おりからの雨に打たれている
飛ぶことも
降りることもかなわず
ぬれながら
黙ってうつむく
なにか言いかけた口のかたちで
息をひそめ
ただ
時が過ぎるのを待つみたいに


❁⃘ 29 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

おもいきり背伸びしたら
指先が青に染まった夏
はじけ散る光が
あまりにもまぶしくて
思わず眼を閉じたそのすきに
あなたが消えた
降りしきる蝉時雨と
熱い風のなかに
ほんのすこし汗ばんだ
あなたの匂いだけを残して


❁⃘ 30 ✩*̩̩̩̥✿*⁎

そうだったと
気づいたときには
すべてが終わっていて
激しい風のなか
ひとり立ちつくす
だれもいない夕暮れ
燃えあがる空だけが
ひろがって
遠くに海鳴りが聞こえる
かなしみから生まれる
よろこびもあるかもしれない

 

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