❁⃘ 101 ✩*̩̩̩̥✿*⁎
音楽だけで語りあえたら
どれほど優しさで満ちるだろう
きっとどんないさかいも
怒りも憎しみも嫉妬さえ
和音のなかに溶けあっていく
あなたの胸に耳をあてると
思わず涙ぐんでしまうほど
強くたしかな音楽が聞こえる
❁⃘ 102 ✩*̩̩̩̥✿*⁎
これまでたくさんの線を引き
賢くなったつもりでいたけれど
こちらとあちらとを分けるとき
どんな嫉妬も侮蔑もないだろうか
縦にも横にもひとびとの間にも
引かれたおびただしい線から
いったいなにが生まれただろう
❁⃘ 103 ✩*̩̩̩̥✿*⁎
胸の鼓動も汗の匂いもくちづけも
シャツの色さえ憶えているのに
あなたの顔が思い出せない
あなたはほんとうは誰だったかしら
眼差しは私を見つめてくれるけれど
首も肩も腕も胸も
こんなにありありとよみがえるけれど
❁⃘ 104 ✩*̩̩̩̥✿*⁎
世界はどんなふうに
終わりを迎えるだろう
おやすみと言いながら
枕元の灯りを消すように
いつのまにか治っている
薬指の擦り傷のように
そっと息を吹きかけるように
世界は終わるだろう
あたりまえで気づかないうちに
❁⃘ 105 ✩*̩̩̩̥✿*⁎
どうしてもうまく言えないときは
句読点になってうずくまる
余白にひろがる水面に
さざなみが立つように
ときおりこっそり
口笛なんかを吹いたりする
どうかすこしだけ立ちどまって
耳をすましてくれますようにと
❁⃘ 106 ✩*̩̩̩̥✿*⁎
捨ててあったあなたの抜け殻を
セーターの代わりに着てみたら
思いのほか似合って
誰にも気づかれない
それどころか
声も仕草もそっくりになって
あなたの名前で呼ばれるので
今ではすっかり
あなたとして暮らしている
❁⃘ 107 ✩*̩̩̩̥✿*⁎
手のひらのなかで
小さなためいきが揺れやまない夕暮れ
彼方から雨の匂いがするような
大切な約束を忘れているような
そんな気がして
こころせくのはなぜかしら
ほんとうはひとりきり
ただ窓から眺めているだけなのに
❁⃘ 108 ✩*̩̩̩̥✿*⁎
からだのどこかに
置き去られた傷痕があって
いつまでも治らない
澄んだ海が
ときおり
涙となってあふれてくる
かなしくはないはずなのに
あなたと音楽を
聴いているだけなのに
穏やかな風に
吹かれているだけなのに
❁⃘ 109 ✩*̩̩̩̥✿*⁎
公園のベンチでうたた寝をしていると
ふいに
あなたがやって来たような気がする
あわてて目を覚ましてみると
猫が背中を丸めている
あなたの声も聞こえたはずなのに
空の青がまぶしすぎて
どうしても涙がとめられない
❁⃘ 110 ✩*̩̩̩̥✿*⁎
人知れず
ゆっくりと迷子になりたいのに
一日の終わりが
あまりにも華やかすぎて
じょうずに隠れることができない
たくさんの音楽やおしゃべりで
飾りたててさえいれば
にぎやかな明日が
やってくるとでもいうように
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