果てしない青のために

あなたの心に、言の葉を揺らす優しい風が届きますように。

詩集『リエゾン LIAISON』より No.27「未遂」

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未遂

その街角をまがってまっすぐに行けば
青空につきあたるから
その城壁に沿って歩いてゆけば
かならず青空にゆきつくから
そう教えてくれた朱鷺色の髪の少女も
ウェディング・ドレスの裾を気にしながら
いつだったか
飛行場から翔びたっていった

なにをそんなふうに泣いているのですか
そう訊いたことがある
あなたは哀しくないのですか
そう答えが返ってきたことがある
いったいそれはなんだったのか
今まで私はなにが哀しかったのか
それが憶い出せない
それ以上哀しいことがありますか
そう言ってむせぶ泣き女に出逢ったのは
いつのことだったろう
それにしてもどこまでも石垣がつづいて
まだ空の青さにはたどりつけない

あのときの少女も今頃は
子供の水遊びを眺めて
毎日帰りの遅いひとのことを
気遣っているだろうか
それともアルバムを繰りながら
むかし駆けつづけていた遠い道のりのことを
憶いかえしているだろうか

城壁に沿った道がある
石畳のゆるやかにのぼる道がある
日々を数え忘れてしまっていた胸に
歩きはじめた頃の足音が
ときおりよみがえってくることがある
過ぎていったひとの横顔が
石垣の隙に浮かびあがってくることがある

道がある
どこまでもまっすぐな道がある
歩いてゆきながら
空の青さについて語ろうか
そう思うのはいつものことだ
けれどもそれは思うばかりで
つきささるような青さには
いつまでもたどりつくことができない

 

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