果てしない青のために(Pour le bleu sans fin)

青山勇樹:詩人。名古屋市在住。大学の教員として教育や研究に励みながら、詩を書いています。もともとは、高等学校の国語科の教員でした。31年間の高校勤務のうち、後半の14年間は教頭として学校の管理にあたりました。現在、大学では、言語と表現、日本語表現、日本の文学などの講義を担当しています。あなたの心に、言の葉を揺らす優しい風が届けられますように。光と戯れる言葉のきらめきが、あなたの心にもあふれますように。仕事の依頼などはメールで ⇨ aoyamayuki1963-poetry@yahoo.co.jp

詩集『リエゾン LIAISON』より No.29「レコード」

f:id:aoyamayuki:20200212171648j:image

レコード

溝のなかで
あなたはまだ生きていて
あの頃よく歌ってくれたジャズのナンバーを
ちょっとだけよそ行きに歌っている

黒く磨かれたピアノの天板に
いつもあなたの横顔がゆれていて
そうしているのが癖だった
指先でくゆらせている煙草
その銘柄もしっかり覚えている

どこから と どこまで
その答えを見つけられないのが
円なのだと知っていたけれど
刻まれた溝はいつまでも
限りなく近い螺旋のまま
ふたつの端を握っている

けれどもそれはもう三十年も前のこと
歌声のあなたと同い年の私の息子が
いまではすっかりあなたに入れあげていて
あなたにあわせて口ずさみながら
擦りきれたジャケットに
丁寧にセロハンテープを貼りつけている

 

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術 #言葉 #創作

詩集『リエゾン LIAISON』より No.28「埠頭」

f:id:aoyamayuki:20200205200537j:image

埠頭

風は渡っていった
それきり

もうこれ以上ここで
旋律になって歌いつづけられないから
預けてあった靴と楽譜を
かえしてください
そういってあなたはでていった
真夜中の扉をあけ
匂い立つ朝霧の彼方へ
さよなら
そのとき叫んだあなたのみずいろが
ぼくのなかでひかる海になる

たったひとつのくちづけだけが
すべてをものがたることだってあるのだ
あなたのいなくなった窓辺のノートに
そう書いたいくつかの文字ですら
あなたのひろげていった海のなかでは
ひとむれのうたかたよりも
いまではもっとあわくて

こんなふうに見つめている
あの遠い朝焼けにしても
そこにたどりついたときにはもう
きっとどこかの夕陽にちがいない
それなのに
あなたはいってしまった
確かにそこに朝があるからと
そこにいって朝になるからと
そのあとに
こんなに眩しい
数えきれないさざ波をうち寄せて

確かなものなどどこにもない
そのことだけがあまりにも確かだ
ここにあるこのあふれる朝のほかに
いったいどこに朝があるというのだろう
そしてここにあるこの夜と
この愛といのちと歌とのほかに

けれどもいってしまった
立ちつくすぼくをかすめあっけなく鮮やかに
風は渡っていってしまった
それきり

 

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術 #言葉 #創作

詩集『リエゾン LIAISON』より No.27「未遂」

f:id:aoyamayuki:20200201100536j:image

未遂

その街角をまがってまっすぐに行けば
青空につきあたるから
その城壁に沿って歩いてゆけば
かならず青空にゆきつくから
そう教えてくれた朱鷺色の髪の少女も
ウェディング・ドレスの裾を気にしながら
いつだったか
飛行場から翔びたっていった

なにをそんなふうに泣いているのですか
そう訊いたことがある
あなたは哀しくないのですか
そう答えが返ってきたことがある
いったいそれはなんだったのか
今まで私はなにが哀しかったのか
それが憶い出せない
それ以上哀しいことがありますか
そう言ってむせぶ泣き女に出逢ったのは
いつのことだったろう
それにしてもどこまでも石垣がつづいて
まだ空の青さにはたどりつけない

あのときの少女も今頃は
子供の水遊びを眺めて
毎日帰りの遅いひとのことを
気遣っているだろうか
それともアルバムを繰りながら
むかし駆けつづけていた遠い道のりのことを
憶いかえしているだろうか

城壁に沿った道がある
石畳のゆるやかにのぼる道がある
日々を数え忘れてしまっていた胸に
歩きはじめた頃の足音が
ときおりよみがえってくることがある
過ぎていったひとの横顔が
石垣の隙に浮かびあがってくることがある

道がある
どこまでもまっすぐな道がある
歩いてゆきながら
空の青さについて語ろうか
そう思うのはいつものことだ
けれどもそれは思うばかりで
つきささるような青さには
いつまでもたどりつくことができない

 

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術 #言葉 #創作

詩集『リエゾン LIAISON』より No.26「薄明」

f:id:aoyamayuki:20200128190451j:image

薄明

からんと晴れたぼくの胸のひろがりに
そびえるひとつの梢がある
その先にはいつからか
ちいさくあおざめた矢印があって

風が

きまって吹いているので
方角はいつも行方知れずだ
どこかで翼のはばたく気配がして
ふりむけば
黒く装ったあなたが
横顔をみせて歩いてゆこうとする

ひとつのおおきな想いが
真夜中の空を渡っていったのは
たしか夏の終わりのことだったろう
あれからずいぶんときがたって
ひとがうたをくりかえしうたって
鳥たちが遠くへいってしまって
たくさんの星が流れて
それでも顔をあげてみると
日焼けした肌をあちこちに貼りつけたまま
まだ空は
新しい陽を見つけることができない

朝でもなくまして夜でもなく
ひろがりは
ただこうして晴れわたるばかりで
どこで生まれてどこへ去るのだろう
風だけがいつも
あなたの髪の香りのふりをしている
矢印といえば
いつもその行方を追いかけて
からからとかわいた夢をみているばかりだ

風が

ではなくぼくの腕がすらりと伸びて
その髪をすくおうとするけれども

つきぬけた腕の果てには
いつまでも立ちつくすひろがりが
やがて訪れる次の風を待ちわびて
黙ったまま矢印を見つめつづける

 

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術 #言葉 #創作

 

 

詩集『リエゾン LIAISON』より No.25「扉をあけてでてゆけば突然の真昼」

f:id:aoyamayuki:20200126212234j:image

扉をあけてでてゆけば突然の真昼

とりあえず〈とりあえず〉と書いてみて
そこからはじまる物語もあるにちがいない
けれどもこうして待ちつづけてはいても
あいかわらず空はまぶしい青で
そのうえ気温は三十度を越えようとしている
夏のはじまり
ひろがりはひろがりのまま
色彩は色彩のまま
音さえも音のまま時間のなかにありつづける
だからすべてに〈とりあえず〉と封印して
扉をあけてでてゆくのだとりあえず

突然の真昼

記憶なんていらない
いま生きているこの腕そしてこの瞳
ただそれだけでいま生きているこの唇
この動悸このほほえみこの涙この傷痕
ただそれだけでこの真昼のなかに
ひろがりはひとつの点にあつまり
色彩は須臾の閃光
音は激しい静寂として
この真昼にあればいい

いのちはいつもただひとつきり
生きること以外なにもできない
愛すること歌うこと想うことや眠ること
それ以外にはなにもできない
ひとつきりたったひとつきり
ただあなたのぬくもりを感じているばかり
高層ビルの偏光ガラス
ショーウインドの麻のジャケット
並木道のゆるやかな坂
銀色にひかるプラネタリウム
すべてが立ちつくすこの真昼のなかを
ひとつきりたったひとつきりのいのち

とりあえず

 

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術 #言葉 #創作

 

詩集『リエゾン LIAISON』より No.24「虹」

f:id:aoyamayuki:20200123203710j:image

殺人現場の隣で
バッハのパッサカリアを聞きながら
そのひとと午後のお茶を飲んでいた
とはじまるひとつの物語を
燃やしてしまったのよ書きあげてから
あなたのそんなおしゃべりを聞きながら
こうして紅茶を飲んでいる
いま流れているのは誰のソナタだろう
暖炉にくべられた薪が
ちょうどあなたの瞳の闇で
黙ったまま死にたえてゆくところ

沈黙の値段を知っているかい
この店のオレンジ・マーマレードと同じ
それともあなたの背丈の白銀の硬貨
それより物語の話だったね
突然あなたは黙ってしまって
だからぼくはマーマレードが食べたい

そんなのは嘘だ
マーマレードのことではなくて
あなたが物語を燃やしてしまったこと
ノートの表紙の黄色が
切り裂くように叫んだからといって
だって物語はここまでで
はじまってからもう二十四行

歳の話などではなく
二十四はあなたの脱いだ服の数
最後は確か緑色だったろうか
ついさっきは一枚のシーツに
あなたの髪が緑にゆれていて
あとでお茶を飲みにゆこうか
そう言ったのを覚えているかい

どんなに焦がれてもたどりつけない
どんなに叫んでもとどかない
どんなにしっかり抱きつづけても
どんなにどんなに
どんなに激しく憧れていても
いつまでも遠い地平線の青に
そこにはあなたがいるのだけれども
どんなに愛しても
どんなに

愛は藍
そんな題がふさわしい

だから物語をかしてごらん
紫草の押花をして
ぼくが持って帰ることにするから
犯行現場は通り雨がよぎって
洗い流してしまったから
お茶を飲み終えたならば
バッハでも口ずさんで歩いてゆけばいい
他人のふりをして行ってしまえば
ほらもうすっかり
雨はあがって虹が立っている


#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術 #言葉 #創作

💐 ことばによる文化創造の新たな地平を切り拓くために 💐

f:id:aoyamayuki:20200123140200j:image

1 作品に内在する「詩的思考」
 現代の日本社会において、ことばによる文化創造は、作品に内在する「詩的思考」を探ることによって、新たな地平を切り拓くことができないだろうか。

2 世界を「物語る」欲求
 池上(1984)によれば、人間は外界を主体的に意味づけ、価値づけ、秩序づけ、「自然」を「文化」に変える営みを主体的に行う「構造化を行う動物」であるという。私たちのこの本質的営為は、世界を「物語る」欲求であるといえるだろう。
 私たちの生は、たとえば幼時のごっこ遊びから、壮大な文学作品に至るまで、現実的世界と主観的世界とをずらし、そこから生まれる快楽を欲する。この差異の感覚を生み出すものこそ「詩的思考」であり、現実空間と物語空間とを繋ぐ回路であり、ことばの持つ記号性の打破であり、比喩である。

3 ことばと思考
 思考は常にことばによってなされ、ことばを離れての思考は存在し得ない。一般的に、思考は自由であり、なにものにも束縛されることはないと思われがちである。しかし、それは思い込みに過ぎず、ことばによって思考形式やものの見方・考え方は規定され、あらゆる現実は認識される。
 私たちがことばで思考し、ことばで世界を認識し、それをことばで表現する以上、ことばは私たち人間の共有財産でなければならない。ことばがめまぐるしく意味を変え、その姿を変貌させ、あるいは使用する人間によって指し示す内容が異なるのであれば、意思の疎通はおろか、思考さえも不可能になってしまう。ことばが誰にとっても共有のものであるという前提で、私たちは思考し、意思の疎通を図っている。
 その一方で、私たちは、きわめて個人的な体験をも、共有財産としてのことばでしか表現し得ない。もちろん、一回性の体験のためにまったく新しいことばを創出することも不可能ではないが、ただ一度きりで繰り返されないものは、ことばとは別の何かでしかない。
 このように、私たちは、人間の共有財産ともいうべき普遍的なことばで、最も個人的な体験すらも語らざるを得ない。ここに、ことばの持つ二面性がある。普遍的なことばで、世界の一局面である個としての私をより精密に語ろうとするとき、どう表現するかが問題となる。

現代社会におけるコミュニケーション
 産業や経済分野を中心とした急速なグローバリゼーション、また、高度なIT化や高齢化により日本の社会構造そのものが大きく変革し、私たちは多様で複雑な社会に身を置いている。特に、今日のインターネット社会では、あらゆるものが簡単にコピー・拡散され、急速に消費される。また、ソーシャル・ネットワーキング・サービスといった新しい情報媒体の普及により、地域社会の持つ共同体的性格が変容し、広範な人間関係のなかで、コミュニケーションのあり方にも大きな変革が起きている。
 この社会は、一見、多様な価値観が認められ、複雑で情報過多であるように見える。けれども、とりわけソーシャル・ネットワーキング・サービスにおいては、即時的な反応が好まれ、また同質性の高いコミュニティで共感が生まれやすいことからも、かえって私たちの日常は即効性のある同質空間でのコミュニケーションが主体となる。このため、世界は分断に満ちている。各々のコミュニティで交わされることばは、たとえ新規な独自性はあっても規範や伝統からは隔絶されやすく、永続する生命の連環から孤立した個は、自らがより大きな生命の一部であるという実感を失いやすい。どれほど容易に情報発信者になれるインタラクティブな空間であれ、行き交う情報が同質で、ものの見方・考え方が固定的であるならば、時間を超え得る文化などはとうてい創造されまい。
 これとは逆に、たとえば異質な者どうしの意思疎通を余儀なくされる消費の場面において、往々にして滑稽なほどマニュアル化されたことば遣いがなされることがあるが、これも本質的には同じ現象であると見ることができよう。

5 社会の役に立たないことば
 荒川(2012)によれば、情報を得られたり時流に合わせたりする本、社会に役立つだけの簡単な本ばかり読まれ、文学書、なかでも詩が読まれないのは、詩のことばが難しく、社会の役に立たないと見られているからであるという。そして、役に立たないことばを失うことによって、人間の心が変わってしまったという。渡邊(2013)も、「詩を読むことは、効率の追求の対極にある行為」であるとし、いまや私たちはあらゆる場で効率を優先させてきた行動がいかに人間的なこころをだめにするかを知っていると指摘する。

6 失われた「共感」する能力
 変貌し消耗した人間のこころから失われたものは、「共感」する能力ではなかろうか。一見すると難しく、社会の役に立たないと見られがちなことばは、じつは自らとは異質な他者の内的世界を認識する手掛かりとなる。にもかかわらず、異質であるからこそ難しく感じられ、自分が求めている情報ではないように錯覚してしまう。
 けれども、優れた文学作品がそうであるように、私たちは、現実的社会からずらされた異質な手ざわりを契機に、目くるめく没入感とともに他者の内面に入り込み、卓越した表現として物語られた他者のことばで思考し、世界を認識し、他者の生を体験し得る。社会の役に立たないと見られがちなことばによる「詩的思考」によって生み出された差異の体験により、他者との「共感」が可能になり、真の多様性と繋がることができるようになるのである。この「共感」の作用によって、世界の分断を超えた新たな文化の創造もなされるのではないか。

7 「詩的思考」と「共感」
 「詩的思考」と「共感」とをキーワードに文学作品を読み解くことによって、作家は普遍的なことばでいかに個を語り作品化しているのか、どのように表現することで世界の再構築がなされるのかについて考察し、ことばによる文化創造の新たな地平を切り拓いてみたい。


参考文献
 荒川洋治(2012) 『詩とことば』 (岩波現代文庫/文芸202) 岩波書店
 池上嘉彦1984) 『記号論への招待』 (岩波新書/黄版258) 岩波書店
 北川透(1993) 『詩的レトリック入門』 思潮社
 丸山圭三郎(1981) 『ソシュールの思想』 岩波書店
 渡邊十絲子(2013) 『今を生きるための現代詩』 (講談社現代新書2209) 講談社


#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術 #言葉 #創作 #詩論 #文学論 #文化創造 #詩的思考 #物語 #思考 #コミュニケーション #ソーシャルネットワーキングサービス #SNS #インタラクティブ #共感

 

詩集『リエゾン LIAISON』より No.23「流れる」

f:id:aoyamayuki:20200120123431j:image

流れる

流れるものは水だろうか時間だろうか
どこかから来てどこかへと向けて
流れているものは
いつもひとではなかったか

岸辺でいつまでも見ているので
河は流れてゆくのだろう
見つめられることに耐えきれず
やがて去るひとをいつくしみながら

朝刊を積みあげてゆくと
二年と八日めに背丈とならぶ
だがそれも時間ではない
ただキロあたり何個の
トイレットペーパーの値に等しい

石斧や土器を
ナイフやコーヒーポットに持ちかえて
それからどんな道具を編みだすのか
どんなときにも空はひろがっていて
風は吹いているにちがいない

いつでも星はゆるやかに遠ざかり
いつでも陽は沈みまた昇って
いつでも大地には草木が生い
いつでもひとは歌をうたうが

百年前ここにいたひとは
百年後には誰もいない
それでもひとは誰かを愛し
誰かのために泣くだろう

真昼のスクランブル交差点
けれどもたしかに私はいまここにいて
あなたが好きだと大声をあげる

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術 #言葉 #創作

詩集『リエゾン LIAISON』より No.22「メロディー」

f:id:aoyamayuki:20200117163758j:image

メロディー

あなたのくちびるから
いまメロディーがあふれはじめる
童歌でも流行歌でもなく
あなたがうたうのは
まぶしいひとつのメロディー

私の心のなかにも
なりつづけているメロディーがある
なにげなくくちずさんでみると
それはとてもなつかしい

たとえば花びらの舞うひだまり
たとえばカフェテラスでのおしゃべり
雨あがりのまぶしい石畳の坂
飛び去る渡り鳥の影
ひとの胸のぬくもり
そして掌にとける雪のひとひら

ひかりやいろ
におい
ふとした仕草やさりげない言葉
そんなありふれたものたちのなかで
いつからかずっとなりひびいていて

生まれてくるとき
かたく閉ざしたふたつの拳
あれはきっといのちの重さ
愛の手ごたえではなかったか
そのとき確かにあのメロディーも
握りしめてはいなかったか

ときを越えて
いのちからいのちへと
どんなひとの心にも
やさしく伝えられたメロディーがある

きこえてはこないか
ふとこぼれる涙のひとしずく
きこえてはこないか
はじけあふれるほほえみのなかに
傷つくたびに焦がれるたびに
ときめくたびに苦しむたびに

いまあなたのくちずさむメロディーに
私がひくく声をかさねる
やがてだれかがハミングをのせ
まただれかがうたいはじめ
だれかがくりかえしつづけて
まただれかがくりかえし

どこからかまた
ひとつのメロディーがきこえる
ひとりがひとりに歌声をあわせ
それがいくつもかさなりあって
だれもがうたいつづけるとき

あかるいひかりにつらぬかれながら
高くそびえる梢のむこう
あおい風が吹きはじめる

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術 #言葉 #創作

詩集『リエゾン LIAISON』より 連作「電話」


連作「電話
https://m.youtube.com/channel/UC4WIuglkD0dvVaWQcUahAZg

         [ 電話a ]
凍った空の低いあたり
今夜もいくつものあつい声が
ひとりからひとりへと駆ける
その綾のかげを ひっそり
さよなら
のさけびがとどく
あなたのすべてが声になって
たったいま
私の肩のうえに重く——
不意にとぎれた受話器から
発信音だけがつづいていて
胸の鼓動にかぶさってくる
真夜中
月光に浮かぶポインセチア
私の鮮血がとびちる

         [ 電話b ]
あなたと別れた
そんな夢からめざめた朝
あなたの夢にみられている
かすかな不安に気づく
雨あがりの庭
吹きわたる風がほのかな青に
染まりはじめたからだろうか
どこまでが夢をみている私で
どこからがあなたの夢のなかか
このことについて誰が語れよう
よしのない物語を考えながら
昨晩の食事のお礼
ただそれだけのために
あなたの部屋の電話番号を
静かにまわしはじめる

         [ 電話c ]
〈もしもし〉が
〈申します〉ではなく
〈もしかしたら〉
と聞こえる昼さがり
盲いた受話器の瞼の奥には
とびちる紅が貼りついて
〈もしもし〉
電話は追憶をたどりはじめる
いつまでもつづく呼出音は
どこへむかっているのだろう
そんなとき
電話も夢をみるのかもしれない
気づけばいつか混線していて
〈もしもし〉
遠くから知らない声が呼ぶ

         [ 電話d ]
朝も午後もあなたは不在で
私のみた夢について
聞かせてあげることができない
九千五百七十回めの呼出音が
いまあなたの部屋にとどく
それともひょっとして
九千七百五十回めだったかしら
暮れなずむ海は
受話器のなかに満ちてきて
やがて私は潮騒となる
ただ揺れつづけるばかりならば
もはや眼も耳もいらない
やがてふたたび真夜中は訪れ
どこか低い空のあたり
ひとつ またピストルがひびく

詩集『リエゾン LIAISON』より No.21「電話(4-4 電話d)」

f:id:aoyamayuki:20200115071239j:image

「電話(4-4 電話d)」

朝も午後もあなたは不在で
私のみた夢について
聞かせてあげることができない
九千五百七十回めの呼出音が
いまあなたの部屋にとどく
それともひょっとして
九千七百五十回めだったかしら
暮れなずむ海は
受話器のなかに満ちてきて
やがて私は潮騒となる
ただ揺れつづけるばかりならば
もはや眼も耳もいらない
やがてふたたび真夜中は訪れ
どこか低い空のあたり
ひとつ またピストルがひびく

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術 #言葉 #創作

詩集『リエゾン LIAISON』より No.20「電話(4-3 電話c)」

f:id:aoyamayuki:20200114210242j:image

電話(4-3 電話c)

〈もしもし〉が
〈申します〉ではなく
〈もしかしたら〉
と聞こえる昼さがり
盲いた受話器の瞼の奥には
とびちる紅が貼りついて
〈もしもし〉
電話は追憶をたどりはじめる
いつまでもつづく呼出音は
どこへむかっているのだろう
そんなとき
電話も夢をみるのかもしれない
気づけばいつか混線していて
〈もしもし〉
遠くから知らない声が呼ぶ

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術 #言葉 #創作

詩集『リエゾン LIAISON』より No.19「電話(4-2 電話b)」

f:id:aoyamayuki:20200111090330j:image

電話(4-2 電話b)

あなたと別れた
そんな夢からめざめた朝
あなたの夢にみられている
かすかな不安に気づく
雨あがりの庭
吹きわたる風がほのかな青に
染まりはじめたからだろうか
どこまでが夢をみている私で
どこからがあなたの夢のなかか
このことについて誰が語れよう
よしのない物語を考えながら
昨晩の食事のお礼
ただそれだけのために
あなたの部屋の電話番号を
静かにまわしはじめる

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術

📃 お知らせ 📃 〈noteでの詩の紹介〉「電話(4-1 電話a)」

noteで詩を紹介しました 📄
#note

凍った空の低いあたり
今夜もいくつものあつい声が
ひとりからひとりへと駆ける
その綾のかげを ひっそり
さよなら
のさけびがとどく
あなたのすべてが声になって
たったいま
私の肩のうえに重く——
不意にとぎれた受話器から
発信音だけがつづいていて
胸の鼓動にかぶさってくる

f:id:aoyamayuki:20200110212200j:image

▶︎ note:https://note.mu/aoyamayuki

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術

詩集『リエゾン LIAISON』より No.18「電話(4-1 電話a)」

f:id:aoyamayuki:20200108210307j:image

電話(4-1 電話a)

凍った空の低いあたり
今夜もいくつものあつい声が
ひとりからひとりへと駆ける
その綾のかげを ひっそり
さよなら
のさけびがとどく
あなたのすべてが声になって
たったいま
私の肩のうえに重く——
不意にとぎれた受話器から
発信音だけがつづいていて
胸の鼓動にかぶさってくる
真夜中
月光に浮かぶポインセチア
私の鮮血がとびちる

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術