たしか腕から肩へ
そんな記憶がある
いまではもう背中いっぱいに
どこまでも繁りつづける
数えきれない葉たち
爪はうすみどりに染まり
眼のなかのふくらんだ空に
葉脈がひろがりはじめましたね
だからもう心配はいらない
あなたはそう言ってほほえみ
私の腕をさやとふるわせて
この部屋から出ていってしまった
あの日から
この窓辺のひかり
その柔らかな視線だけが
私のからだのうえを触れる
たしか腕とか肩とか
そんなものがあったような気がする
背中
私の裏側にむきだしのひろさ
あれはいつかの夢だったのだろう
いまではただみどりの粒々だけが
頭のなかで育ち透きとおってゆく
あなた
は誰だったのか
あなたはいつかの私だったのか
そんな記憶もあわいみどりにゆれて
どうでもいいことだ私には
どうでもいいことだ私さえみどりに消えて
あとにはひろがるみどりが
秘めやかに息衝きはじめる
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