果てしない青のために(Pour le bleu sans fin)

青山勇樹:詩人。名古屋市在住。大学の教員として教育や研究に励みながら、詩を書いています。もともとは、高等学校の国語科の教員でした。31年間の高校勤務のうち、後半の14年間は教頭として学校の管理にあたりました。現在、大学では、言語と表現、日本語表現、日本の文学などの講義を担当しています。あなたの心に、言の葉を揺らす優しい風が届けられますように。光と戯れる言葉のきらめきが、あなたの心にもあふれますように。仕事の依頼などはメールで ⇨ aoyamayuki1963-poetry@yahoo.co.jp

詩集『リエゾン LIAISON』より No.24「虹」

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殺人現場の隣で
バッハのパッサカリアを聞きながら
そのひとと午後のお茶を飲んでいた
とはじまるひとつの物語を
燃やしてしまったのよ書きあげてから
あなたのそんなおしゃべりを聞きながら
こうして紅茶を飲んでいる
いま流れているのは誰のソナタだろう
暖炉にくべられた薪が
ちょうどあなたの瞳の闇で
黙ったまま死にたえてゆくところ

沈黙の値段を知っているかい
この店のオレンジ・マーマレードと同じ
それともあなたの背丈の白銀の硬貨
それより物語の話だったね
突然あなたは黙ってしまって
だからぼくはマーマレードが食べたい

そんなのは嘘だ
マーマレードのことではなくて
あなたが物語を燃やしてしまったこと
ノートの表紙の黄色が
切り裂くように叫んだからといって
だって物語はここまでで
はじまってからもう二十四行

歳の話などではなく
二十四はあなたの脱いだ服の数
最後は確か緑色だったろうか
ついさっきは一枚のシーツに
あなたの髪が緑にゆれていて
あとでお茶を飲みにゆこうか
そう言ったのを覚えているかい

どんなに焦がれてもたどりつけない
どんなに叫んでもとどかない
どんなにしっかり抱きつづけても
どんなにどんなに
どんなに激しく憧れていても
いつまでも遠い地平線の青に
そこにはあなたがいるのだけれども
どんなに愛しても
どんなに

愛は藍
そんな題がふさわしい

だから物語をかしてごらん
紫草の押花をして
ぼくが持って帰ることにするから
犯行現場は通り雨がよぎって
洗い流してしまったから
お茶を飲み終えたならば
バッハでも口ずさんで歩いてゆけばいい
他人のふりをして行ってしまえば
ほらもうすっかり
雨はあがって虹が立っている


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