詩集『リエゾン LIAISON』より No.22「メロディー」
メロディー
あなたのくちびるから
いまメロディーがあふれはじめる
童歌でも流行歌でもなく
あなたがうたうのは
まぶしいひとつのメロディー
私の心のなかにも
なりつづけているメロディーがある
なにげなくくちずさんでみると
それはとてもなつかしい
たとえば花びらの舞うひだまり
たとえばカフェテラスでのおしゃべり
雨あがりのまぶしい石畳の坂
飛び去る渡り鳥の影
ひとの胸のぬくもり
そして掌にとける雪のひとひら
ひかりやいろ
におい
ふとした仕草やさりげない言葉
そんなありふれたものたちのなかで
いつからかずっとなりひびいていて
生まれてくるとき
かたく閉ざしたふたつの拳
あれはきっといのちの重さ
愛の手ごたえではなかったか
そのとき確かにあのメロディーも
握りしめてはいなかったか
ときを越えて
いのちからいのちへと
どんなひとの心にも
やさしく伝えられたメロディーがある
きこえてはこないか
ふとこぼれる涙のひとしずくに
きこえてはこないか
はじけあふれるほほえみのなかに
傷つくたびに焦がれるたびに
ときめくたびに苦しむたびに
いまあなたのくちずさむメロディーに
私がひくく声をかさねる
やがてだれかがハミングをのせ
まただれかがうたいはじめ
だれかがくりかえしつづけて
まただれかがくりかえし
どこからかまた
ひとつのメロディーがきこえる
ひとりがひとりに歌声をあわせ
それがいくつもかさなりあって
だれもがうたいつづけるとき
あかるいひかりにつらぬかれながら
高くそびえる梢のむこう
あおい風が吹きはじめる
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