果てしない青のために(Pour le bleu sans fin)

青山勇樹:詩人。名古屋市在住。大学の教員として教育や研究に励みながら、詩を書いています。もともとは、高等学校の国語科の教員でした。31年間の高校勤務のうち、後半の14年間は教頭として学校の管理にあたりました。現在、大学では、言語と表現、日本語表現、日本の文学などの講義を担当しています。あなたの心に、言の葉を揺らす優しい風が届けられますように。光と戯れる言葉のきらめきが、あなたの心にもあふれますように。仕事の依頼などはメールで ⇨ aoyamayuki1963-poetry@yahoo.co.jp

詩集『リエゾン LIAISON』より 連作「電話」


連作「電話
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         [ 電話a ]
凍った空の低いあたり
今夜もいくつものあつい声が
ひとりからひとりへと駆ける
その綾のかげを ひっそり
さよなら
のさけびがとどく
あなたのすべてが声になって
たったいま
私の肩のうえに重く——
不意にとぎれた受話器から
発信音だけがつづいていて
胸の鼓動にかぶさってくる
真夜中
月光に浮かぶポインセチア
私の鮮血がとびちる

         [ 電話b ]
あなたと別れた
そんな夢からめざめた朝
あなたの夢にみられている
かすかな不安に気づく
雨あがりの庭
吹きわたる風がほのかな青に
染まりはじめたからだろうか
どこまでが夢をみている私で
どこからがあなたの夢のなかか
このことについて誰が語れよう
よしのない物語を考えながら
昨晩の食事のお礼
ただそれだけのために
あなたの部屋の電話番号を
静かにまわしはじめる

         [ 電話c ]
〈もしもし〉が
〈申します〉ではなく
〈もしかしたら〉
と聞こえる昼さがり
盲いた受話器の瞼の奥には
とびちる紅が貼りついて
〈もしもし〉
電話は追憶をたどりはじめる
いつまでもつづく呼出音は
どこへむかっているのだろう
そんなとき
電話も夢をみるのかもしれない
気づけばいつか混線していて
〈もしもし〉
遠くから知らない声が呼ぶ

         [ 電話d ]
朝も午後もあなたは不在で
私のみた夢について
聞かせてあげることができない
九千五百七十回めの呼出音が
いまあなたの部屋にとどく
それともひょっとして
九千七百五十回めだったかしら
暮れなずむ海は
受話器のなかに満ちてきて
やがて私は潮騒となる
ただ揺れつづけるばかりならば
もはや眼も耳もいらない
やがてふたたび真夜中は訪れ
どこか低い空のあたり
ひとつ またピストルがひびく