詩
電話(4-2 電話b) あなたと別れたそんな夢からめざめた朝あなたの夢にみられているかすかな不安に気づく雨あがりの庭吹きわたる風がほのかな青に染まりはじめたからだろうかどこまでが夢をみている私でどこからがあなたの夢のなかかこのことについて誰が語…
noteで詩を紹介しました #note 凍った空の低いあたり今夜もいくつものあつい声がひとりからひとりへと駆けるその綾のかげを ひっそりさよならのさけびがとどくあなたのすべてが声になってたったいま私の肩のうえに重く——不意にとぎれた受話器から発信音だけ…
電話(4-1 電話a) 凍った空の低いあたり今夜もいくつものあつい声がひとりからひとりへと駆けるその綾のかげを ひっそりさよならのさけびがとどくあなたのすべてが声になってたったいま私の肩のうえに重く——不意にとぎれた受話器から発信音だけがつづいてい…
卒業 きょうの言葉はきょうのうちに見えない風の粒々になっていつか吹きぬけてゆくはずなのに静まりかえった青に染められさよならの声がたちどまる 記念写真の隅で息をこらし時計をとめてまばたきをするすべてはその一瞬に思い出という装いをはじめるだから…
種子 かすかなうごめきのほかにはじめてのいのちはまだなにもかたろうとはしないけれどもまもなくはじけてひらきこぼれあふれるのだあさがそこここにみちてひろがりみずのおもてをあざやかにながれてあかるいさけびをあげはじめるときに そのかたくとざされ…
六月の鯨 真夜中の電話ボックスに閉じこもって六月の鯨は華やかな夢をみている外れた受話器からこぼれる発信音を枕にガラスの向こうに敷きつめられた紫陽花とどうにかしておしゃべりできないかと 「もしもし」不意に受話器が話しはじめる白く濁った気泡がわ…
通りゃんせ 硝子のコップに小さなひび割れを見つけた朝庭からかすかな鳥の囀りが聞こえた気がするありふれた一日の始まりにある僅かな違和感ひょっとしたらこれは他人の記憶ではないか私ではない私がこっそりのぞいているのかも なぜいつも私のまわりだけ雨…
そして冬がはじまる 降りしきる雪を救急車のサイレンが切り裂くクリスマスキャロルが家路への足を急がせる切ないめまいのなか遠くで誰かが呼んでいる助けてほしいときれぎれの声が聞こえてくるエナメルのコートが肩をぶつけて行き過ぎる 「それから」と投げ…
涙 見開いた瞳からこぼれ落ちる涙が眩しく光る声もたてず表情も変えずあなたが泣いている湿った心のなかに激しい嵐が吹き荒れても瞬きもしないで空の青だけを見つめている私は傍らで黙ったままあなたを見つめている 瞳いっぱいにあふれた水に世界が逆さに映…
「七つのかたち」 1 紅一点 ひとりでいるときはとてもうつくしいけれどもふたりでいるときのほうがあなたはもっときらめいてみえるたくさんのおとこたちのなかではあなたはほとんどまぶしさにちかいささやかなねたみとあこがれをいだいてだからわたしはおと…
さえざえとした水鏡にひとときいくつものかたちがよぎっていったがそのものたちを正しく呼ぶことができないふいに見つめるまなざしがゆらぐと行方知れずのおもいが同心円をえがきだすかすかなみなわがしずけさにそよいでまばたきよりもひそやかに
Christmas Eve Special 華やかな逡巡 驚いたような時雨が一瞬にして駆け抜けたあとなだらかに伸びる坂道を夕陽のなかへ降りていく金色に染められた雫が枝先からこぼれ落ちてくるたくさんのさようならが逆光を受けて眩しい影となる行き着く場所があるか…
あわせた掌ですくうよりもひかるガラスの器で飲みたい水もある水を飲むためにではなくながめていたいだけのグラスもある飲むためにでもながめるためにでもなくたかぶる感情で砕いてしまってからしめやかに思い浮かべる輝きもある
誰もが心にひとつの沈黙を宿しているそこではあらゆるものが収斂しもはや弾丸ですらそれを射ぬくことができないかくれることで見えなくなるものがあればかくすことで見えてくるものもあるだろうふとあおぎみれば星空がかたむいてたまらなくひとの声が聞きた…
丸でも四角でもまして楔形でもなくしいていえば疵口にちかい」あるときは痛みを思いださせる印でありあるときは秘密が窺えるかもしれないただときとして穴のむこうとこちらで覗き込む瞳がぶつかることもあるがそのときは黙ってうつむくしかない
のっぺらぼうは瞳がなかったのでのっぺらぽうは泣くことができなかったのっぺらぼうは口がなかったのでのっぺらぼうはしゃべることができなかったのっぺらぼうは誰の子かわからなかったのでへのへのもへじを書いてもらったらのっぺらぼうは音楽が聞きたいと…
書き込まれた記号ばかりなのに聞こえない音に満ちあふれていてプレスティッシモのパッセージからはのぼりつめる小鳥のさえずりゲネラル・パウゼにはふき渡るあおい風ときには緩やかにときには華やかに五本の線で綴じられた風景がある
七つのかたち(7-1 紅一点) ひとりでいるときはとてもうつくしいけれどもふたりでいるときのほうがあなたはもっときらめいてみえるたくさんのおとこたちのなかではあなたはほとんどまぶしさにちかいささやかなねたみとあこがれをいだいてだからわたしはおと…
未来 欄干にもたれても昨夜の夢がかえってこないそんなときは蝶になってまだ朱け染めぬ海峡を渡るそれにしてもきのうの夢はいままでにかえってきたためしがないだからもうすっかり蝶になってしまってこうして渡りつづけてはいるがまだ海流は暗く閉じたままで…
手紙 宮殿からアテティカの谷へと降りてゆくあの階段で、あなたを見かけようとは思いもしないことでした。暑い日盛り、あなたの着ていたガウンと足許の大理石との白が、たがいに響きあって、澄んだ階音を鳴らしていたことを記憶しております。それともあれは…
朝のエチュード すべてはどうしてこれほどまでに私を不安にさせるのだろうたとえばそれがライターにしてもたとえばひとくちの水であるにしても こんなにもすべてがそろっているのにこんなにもたくさんのひとがいるのになんだかとても寒くてならない陽はこん…
恋の終わり こんなにかたく結びあっているのにあなたと私とのあいだにはつづいているみちのりがあってだから時間がいつも空気になってゆらいでいる まぶしい陽をみつめていると不意にあなたに会いたくなってそれなのに誰だったのか思いだせないあなたの名前…