果てしない青のために

あなたの心に、言の葉を揺らす優しい風が届きますように。

詩集『リエゾン LIAISON』より No.25「扉をあけてでてゆけば突然の真昼」

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扉をあけてでてゆけば突然の真昼

とりあえず〈とりあえず〉と書いてみて
そこからはじまる物語もあるにちがいない
けれどもこうして待ちつづけてはいても
あいかわらず空はまぶしい青で
そのうえ気温は三十度を越えようとしている
夏のはじまり
ひろがりはひろがりのまま
色彩は色彩のまま
音さえも音のまま時間のなかにありつづける
だからすべてに〈とりあえず〉と封印して
扉をあけてでてゆくのだとりあえず

突然の真昼

記憶なんていらない
いま生きているこの腕そしてこの瞳
ただそれだけでいま生きているこの唇
この動悸このほほえみこの涙この傷痕
ただそれだけでこの真昼のなかに
ひろがりはひとつの点にあつまり
色彩は須臾の閃光
音は激しい静寂として
この真昼にあればいい

いのちはいつもただひとつきり
生きること以外なにもできない
愛すること歌うこと想うことや眠ること
それ以外にはなにもできない
ひとつきりたったひとつきり
ただあなたのぬくもりを感じているばかり
高層ビルの偏光ガラス
ショーウインドの麻のジャケット
並木道のゆるやかな坂
銀色にひかるプラネタリウム
すべてが立ちつくすこの真昼のなかを
ひとつきりたったひとつきりのいのち

とりあえず

 

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