詩集『リエゾン LIAISON』より No.16 「種子」
種子
かすかなうごめきのほかに
はじめてのいのちは
まだなにもかたろうとはしない
けれどもまもなくはじけて
ひらきこぼれあふれるのだ
あさが
そこここにみちてひろがり
みずのおもてをあざやかにながれて
あかるいさけびをあげはじめるときに
そのかたくとざされたまぶたに
そのにぎりしめたてのひらに
そのむねにそのうでに
そのやわらかなほほのうえに
その
そのいのちのおくにたったひとつのまぶしさ
このいのちのために
おおきなこえでうたをうたおうか
そらのあおさについてかたろうか
うちゅうのひびきをきいてみようか
しようかしようかなにをしようか
ひとがこっそりしんでゆくとき
ミサイルのばくはつはききたくない
おなかをすかせたこどもがいるのに
すきなひととくちづけはかわせない
たったひとくちのみずとひきかえに
こころをうりわたしてしまうことなんて
いのちはいつも
ただひとつのまぶしさだから
ひとつのいのちのよろこびが
ひとつのいのちのはげしさが
ひとつのいのちのかなしみが
ひとつのいのちのくるしみが
はかなさがときめきがいらだちがおどろきが
ひとつのいのちから
またあたらしいひとつのいのちへと
まぶしさとなって
とこしえに
いま
みずのおもてにひとしくつりあい
やがておとずれるかいかのことを
はなやかにゆめみてねむりつづける
ちいさないのち
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