果てしない青のために

あなたの心に、言の葉を揺らす優しい風が届きますように。

詩集『リエゾン LIAISON』より No.17「卒業」

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卒業

きょうの言葉はきょうのうちに
見えない風の粒々になって
いつか吹きぬけてゆくはずなのに
静まりかえった青に染められ
さよならの声がたちどまる

記念写真の隅で息をこらし
時計をとめてまばたきをする
すべてはその一瞬に
思い出という装いをはじめる
だからもう制服はいらない

誰もいないグランドに
ふと遠い喚声がこだまする
おもいがけなくよみがえるのは
あつい鼓動と
テニスボールの真新しい匂い

追憶とは忘れているものだ
想いだすときにはいつも
忘れていたということに気がつく
それはすこし恥ずかしいから
懐かしいなどとつぶやいてみる

さしだすひとつの掌があり
うけとる確かなぬくもりがある
ひかりはこぼれあふれていて
まぶしさに瞳をとじるのではなく
見つめるまなざしこそがまぶしい

扉をあけてでてゆこうとすると
私の胸から白い炎が翔びたつ
高みでひとしきりきょうの風にゆれ
やがてはばたく翼のかたちで
どこまでも舞いつづける

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