六月の鯨
真夜中の電話ボックスに閉じこもって
六月の鯨は華やかな夢をみている
外れた受話器からこぼれる発信音を枕に
ガラスの向こうに敷きつめられた紫陽花と
どうにかしておしゃべりできないかと
「もしもし」不意に受話器が話しはじめる
白く濁った気泡がわずかに湧いただけなのに
呼びかけられた気がしたのかもしれない
それともたしかに聞こえたのだろうか
あまりにも鋭い聴細胞は錯覚すらも許さない
六月の鯨はほんのりと頬を染めたまま
いつまでも夢から覚める気配がない
雨と海との溶け合ったひとしずくが
目頭から静かにこぼれ落ちたあと
やがて紫陽花の色の潮を吹こうとしている
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