2019-12-12から1日間の記事一覧
手紙 宮殿からアテティカの谷へと降りてゆくあの階段で、あなたを見かけようとは思いもしないことでした。暑い日盛り、あなたの着ていたガウンと足許の大理石との白が、たがいに響きあって、澄んだ階音を鳴らしていたことを記憶しております。それともあれは…
朝のエチュード すべてはどうしてこれほどまでに私を不安にさせるのだろうたとえばそれがライターにしてもたとえばひとくちの水であるにしても こんなにもすべてがそろっているのにこんなにもたくさんのひとがいるのになんだかとても寒くてならない陽はこん…
恋の終わり こんなにかたく結びあっているのにあなたと私とのあいだにはつづいているみちのりがあってだから時間がいつも空気になってゆらいでいる まぶしい陽をみつめていると不意にあなたに会いたくなってそれなのに誰だったのか思いだせないあなたの名前…
留守番電話 ひとは沈黙がおそろしいのでおしゃべりをやめることができないひとは無がおそろしいので遍在したいと願うのだ 無を語るには沈黙しかないのに電話にさえ私はいないと云う声がいる私はいないというそのことをあたかも在るというかのように 在ること…
不在証明 そこにいるただそれだけの理由であなたを愛せるこれは不遜な考えだろうかたとえば〈たとえば〉という言葉ひとつであなたについて語ろうとするのは 名づけることでそれは私のなかで息衝きはじめる不在証明とはだから名前を消し去ることだ名づけられ…
いざない あした真夜中の海にこないか果てしない波のくりかえしのなかでいつまでも眠る真珠になろう それは美しい歌でもなくそれは誓いの言葉でもなくただうずくまるだけの真珠その透きとおる肌のおもてにあらゆるものを映して どんないろやかたちやにおいも…
視線 ふたりでいるときよりも ひとりでいるときのほうがずっと あなたのことを感じていられる 恋のはじまりとは嫉妬でしかない そんな感情をもてあましながら まぶしさについて考えている 光はどこかに闇があるので あんなにかがやいていられるのかしら たと…
これから、青山勇樹の詩集『リエゾン LIAISON』のなかから、詩を紹介していきます。