『クレーの絵本』 谷川俊太郎 著
おおきなさかなはおおきなくちで
ちゅうくらいのさかなをたべ
ちゅうくらいのさかなは
ちいさなさかなをたべ
ちいさなさかなは
もっとちいさな
さかなをたべ
いのちはいのちをいけにえとして
ひかりかがやく
しあわせはふしあわせをやしないとして
はなひらく
どんなよろこびのふかいうみにも
ひとつぶのなみだが
とけていないということはない
パウル・クレー(Zentrum Paul Klee)の絵に添えられた、「黄金の魚 Der Goldfisch 1925」という作品である。
1879年、スイスの首都ベルン近郊に生まれ、絵と音楽と詩作とに天分を発揮したクレーは、新しい絵画運動の一翼を担うも、ナチスによる迫害と皮膚硬化症という奇病とに苦しみ、1940年に永眠した。「芸術とは見たものを表現するのではなく、見えないものを見えるようにすることである」と主張し、線と色彩とで秘められた物語を描き出そうとしたクレーの絵は、抽象画とも異なる独特なもので、その不思議な文字や線は、私たちの心の深みに眠る静かな感情を呼び起こす。
そうしたクレーの40点の絵に触発された稀代の名詩人、谷川俊太郎の14編の詩を収めた、絵と詩とがデュエットを奏でる一冊である。
平易な語彙を用い、平仮名ばかりで書かれた短詩ではあるものの、読み返すたび、いのちの根源を見つめる詩人の鋭いまなざしに驚かされる。かけがえのないいのちの重さと、ゆえにこそいのちが宿命的に孕む玲瓏たるかなしみとが胸に迫る。
絵と詩とに埋め尽くされたページから、遥かな高みを渡る美しい旋律が聞こえるような気がするのも、あながちあてどない妄想と切り捨てられまい。
▶︎YouTube:https://youtu.be/Y_v9Rhn51RY
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