果てしない青のために

あなたの心に、言の葉を揺らす優しい風が届きますように。

🎍年末・年始 Special Week 1🎍 〈文学の魅力〉 📖 時を越える 📖

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文学の魅力

 

 深い森には魔女が棲むように、蔵書の背後の暗がりに時空を自在に操る妖精が潜んでいる気がしてならなかった子どもの頃、週末になるたび、隣町の境内にあった大きな図書館へと自転車を走らせた。

 文芸書が売れないと嘆かれるようになって久しい。文学は効率追求の対極に位置し、そこに書かれたことばは社会の役に立たず、現実とは異質なものとみられがちである。けれども、優れた文学作品がそうであるように、私たちは、現実的世界からずらされた異質な手ざわりを契機に、目くるめく没入感とともに「物語られた」世界で他者の内面に入り込み、他者のことばで思考し、世界を認識し、他者の生を体験する。現実の役に立たないとみなされたことばが生み出した差異の体験は、かえって現実社会における他者との共感を可能にし、疲弊した現代人の孤独なこころを揺り動かす。

 人間は外界を主体的に意味づけ、価値づけ、秩序づける。この営為は、世界を「物語る」欲求である。私たちの生は、たとえば幼時のごっこ遊びから壮大な文学作品に至るまで、現実的世界と主観的世界とをずらし、そこから生まれる差異の快楽を欲する。

 だから、よしんば妖精などいるはずもなかろうとも、書物のなかで物語は時を越え、褪せることなく息衝く

 町外れの踏切で車窓から抛られた蜜柑の色も、積み上げた画集に仕掛けた檸檬の冷たい重さも、すべてはいつでも鮮やかによみがえる。ひとつまたひとつと落ちる紅白の椿は艶やかな葉の緑に映え、夕陽の丘に金色の銀杏散りやまず、太郎と次郎の屋根には静かに雪が降り続く。月夜の晩の波打際には今でもボタンが落ちていて、拾ってくれる人をひっそりと待っている。

 

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