果てしない青のために

あなたの心に、言の葉を揺らす優しい風が届きますように。

💐 ことばによる文化創造の新たな地平を切り拓くために 💐

f:id:aoyamayuki:20200123140200j:image

1 作品に内在する「詩的思考」
 現代の日本社会において、ことばによる文化創造は、作品に内在する「詩的思考」を探ることによって、新たな地平を切り拓くことができないだろうか。

2 世界を「物語る」欲求
 池上(1984)によれば、人間は外界を主体的に意味づけ、価値づけ、秩序づけ、「自然」を「文化」に変える営みを主体的に行う「構造化を行う動物」であるという。私たちのこの本質的営為は、世界を「物語る」欲求であるといえるだろう。
 私たちの生は、たとえば幼時のごっこ遊びから、壮大な文学作品に至るまで、現実的世界と主観的世界とをずらし、そこから生まれる快楽を欲する。この差異の感覚を生み出すものこそ「詩的思考」であり、現実空間と物語空間とを繋ぐ回路であり、ことばの持つ記号性の打破であり、比喩である。

3 ことばと思考
 思考は常にことばによってなされ、ことばを離れての思考は存在し得ない。一般的に、思考は自由であり、なにものにも束縛されることはないと思われがちである。しかし、それは思い込みに過ぎず、ことばによって思考形式やものの見方・考え方は規定され、あらゆる現実は認識される。
 私たちがことばで思考し、ことばで世界を認識し、それをことばで表現する以上、ことばは私たち人間の共有財産でなければならない。ことばがめまぐるしく意味を変え、その姿を変貌させ、あるいは使用する人間によって指し示す内容が異なるのであれば、意思の疎通はおろか、思考さえも不可能になってしまう。ことばが誰にとっても共有のものであるという前提で、私たちは思考し、意思の疎通を図っている。
 その一方で、私たちは、きわめて個人的な体験をも、共有財産としてのことばでしか表現し得ない。もちろん、一回性の体験のためにまったく新しいことばを創出することも不可能ではないが、ただ一度きりで繰り返されないものは、ことばとは別の何かでしかない。
 このように、私たちは、人間の共有財産ともいうべき普遍的なことばで、最も個人的な体験すらも語らざるを得ない。ここに、ことばの持つ二面性がある。普遍的なことばで、世界の一局面である個としての私をより精密に語ろうとするとき、どう表現するかが問題となる。

現代社会におけるコミュニケーション
 産業や経済分野を中心とした急速なグローバリゼーション、また、高度なIT化や高齢化により日本の社会構造そのものが大きく変革し、私たちは多様で複雑な社会に身を置いている。特に、今日のインターネット社会では、あらゆるものが簡単にコピー・拡散され、急速に消費される。また、ソーシャル・ネットワーキング・サービスといった新しい情報媒体の普及により、地域社会の持つ共同体的性格が変容し、広範な人間関係のなかで、コミュニケーションのあり方にも大きな変革が起きている。
 この社会は、一見、多様な価値観が認められ、複雑で情報過多であるように見える。けれども、とりわけソーシャル・ネットワーキング・サービスにおいては、即時的な反応が好まれ、また同質性の高いコミュニティで共感が生まれやすいことからも、かえって私たちの日常は即効性のある同質空間でのコミュニケーションが主体となる。このため、世界は分断に満ちている。各々のコミュニティで交わされることばは、たとえ新規な独自性はあっても規範や伝統からは隔絶されやすく、永続する生命の連環から孤立した個は、自らがより大きな生命の一部であるという実感を失いやすい。どれほど容易に情報発信者になれるインタラクティブな空間であれ、行き交う情報が同質で、ものの見方・考え方が固定的であるならば、時間を超え得る文化などはとうてい創造されまい。
 これとは逆に、たとえば異質な者どうしの意思疎通を余儀なくされる消費の場面において、往々にして滑稽なほどマニュアル化されたことば遣いがなされることがあるが、これも本質的には同じ現象であると見ることができよう。

5 社会の役に立たないことば
 荒川(2012)によれば、情報を得られたり時流に合わせたりする本、社会に役立つだけの簡単な本ばかり読まれ、文学書、なかでも詩が読まれないのは、詩のことばが難しく、社会の役に立たないと見られているからであるという。そして、役に立たないことばを失うことによって、人間の心が変わってしまったという。渡邊(2013)も、「詩を読むことは、効率の追求の対極にある行為」であるとし、いまや私たちはあらゆる場で効率を優先させてきた行動がいかに人間的なこころをだめにするかを知っていると指摘する。

6 失われた「共感」する能力
 変貌し消耗した人間のこころから失われたものは、「共感」する能力ではなかろうか。一見すると難しく、社会の役に立たないと見られがちなことばは、じつは自らとは異質な他者の内的世界を認識する手掛かりとなる。にもかかわらず、異質であるからこそ難しく感じられ、自分が求めている情報ではないように錯覚してしまう。
 けれども、優れた文学作品がそうであるように、私たちは、現実的社会からずらされた異質な手ざわりを契機に、目くるめく没入感とともに他者の内面に入り込み、卓越した表現として物語られた他者のことばで思考し、世界を認識し、他者の生を体験し得る。社会の役に立たないと見られがちなことばによる「詩的思考」によって生み出された差異の体験により、他者との「共感」が可能になり、真の多様性と繋がることができるようになるのである。この「共感」の作用によって、世界の分断を超えた新たな文化の創造もなされるのではないか。

7 「詩的思考」と「共感」
 「詩的思考」と「共感」とをキーワードに文学作品を読み解くことによって、作家は普遍的なことばでいかに個を語り作品化しているのか、どのように表現することで世界の再構築がなされるのかについて考察し、ことばによる文化創造の新たな地平を切り拓いてみたい。


参考文献
 荒川洋治(2012) 『詩とことば』 (岩波現代文庫/文芸202) 岩波書店
 池上嘉彦1984) 『記号論への招待』 (岩波新書/黄版258) 岩波書店
 北川透(1993) 『詩的レトリック入門』 思潮社
 丸山圭三郎(1981) 『ソシュールの思想』 岩波書店
 渡邊十絲子(2013) 『今を生きるための現代詩』 (講談社現代新書2209) 講談社


#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術 #言葉 #創作 #詩論 #文学論 #文化創造 #詩的思考 #物語 #思考 #コミュニケーション #ソーシャルネットワーキングサービス #SNS #インタラクティブ #共感

 

詩集『リエゾン LIAISON』より No.23「流れる」

f:id:aoyamayuki:20200120123431j:image

流れる

流れるものは水だろうか時間だろうか
どこかから来てどこかへと向けて
流れているものは
いつもひとではなかったか

岸辺でいつまでも見ているので
河は流れてゆくのだろう
見つめられることに耐えきれず
やがて去るひとをいつくしみながら

朝刊を積みあげてゆくと
二年と八日めに背丈とならぶ
だがそれも時間ではない
ただキロあたり何個の
トイレットペーパーの値に等しい

石斧や土器を
ナイフやコーヒーポットに持ちかえて
それからどんな道具を編みだすのか
どんなときにも空はひろがっていて
風は吹いているにちがいない

いつでも星はゆるやかに遠ざかり
いつでも陽は沈みまた昇って
いつでも大地には草木が生い
いつでもひとは歌をうたうが

百年前ここにいたひとは
百年後には誰もいない
それでもひとは誰かを愛し
誰かのために泣くだろう

真昼のスクランブル交差点
けれどもたしかに私はいまここにいて
あなたが好きだと大声をあげる

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術 #言葉 #創作

詩集『リエゾン LIAISON』より No.22「メロディー」

f:id:aoyamayuki:20200117163758j:image

メロディー

あなたのくちびるから
いまメロディーがあふれはじめる
童歌でも流行歌でもなく
あなたがうたうのは
まぶしいひとつのメロディー

私の心のなかにも
なりつづけているメロディーがある
なにげなくくちずさんでみると
それはとてもなつかしい

たとえば花びらの舞うひだまり
たとえばカフェテラスでのおしゃべり
雨あがりのまぶしい石畳の坂
飛び去る渡り鳥の影
ひとの胸のぬくもり
そして掌にとける雪のひとひら

ひかりやいろ
におい
ふとした仕草やさりげない言葉
そんなありふれたものたちのなかで
いつからかずっとなりひびいていて

生まれてくるとき
かたく閉ざしたふたつの拳
あれはきっといのちの重さ
愛の手ごたえではなかったか
そのとき確かにあのメロディーも
握りしめてはいなかったか

ときを越えて
いのちからいのちへと
どんなひとの心にも
やさしく伝えられたメロディーがある

きこえてはこないか
ふとこぼれる涙のひとしずく
きこえてはこないか
はじけあふれるほほえみのなかに
傷つくたびに焦がれるたびに
ときめくたびに苦しむたびに

いまあなたのくちずさむメロディーに
私がひくく声をかさねる
やがてだれかがハミングをのせ
まただれかがうたいはじめ
だれかがくりかえしつづけて
まただれかがくりかえし

どこからかまた
ひとつのメロディーがきこえる
ひとりがひとりに歌声をあわせ
それがいくつもかさなりあって
だれもがうたいつづけるとき

あかるいひかりにつらぬかれながら
高くそびえる梢のむこう
あおい風が吹きはじめる

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術 #言葉 #創作

詩集『リエゾン LIAISON』より 連作「電話」


連作「電話
https://m.youtube.com/channel/UC4WIuglkD0dvVaWQcUahAZg

         [ 電話a ]
凍った空の低いあたり
今夜もいくつものあつい声が
ひとりからひとりへと駆ける
その綾のかげを ひっそり
さよなら
のさけびがとどく
あなたのすべてが声になって
たったいま
私の肩のうえに重く——
不意にとぎれた受話器から
発信音だけがつづいていて
胸の鼓動にかぶさってくる
真夜中
月光に浮かぶポインセチア
私の鮮血がとびちる

         [ 電話b ]
あなたと別れた
そんな夢からめざめた朝
あなたの夢にみられている
かすかな不安に気づく
雨あがりの庭
吹きわたる風がほのかな青に
染まりはじめたからだろうか
どこまでが夢をみている私で
どこからがあなたの夢のなかか
このことについて誰が語れよう
よしのない物語を考えながら
昨晩の食事のお礼
ただそれだけのために
あなたの部屋の電話番号を
静かにまわしはじめる

         [ 電話c ]
〈もしもし〉が
〈申します〉ではなく
〈もしかしたら〉
と聞こえる昼さがり
盲いた受話器の瞼の奥には
とびちる紅が貼りついて
〈もしもし〉
電話は追憶をたどりはじめる
いつまでもつづく呼出音は
どこへむかっているのだろう
そんなとき
電話も夢をみるのかもしれない
気づけばいつか混線していて
〈もしもし〉
遠くから知らない声が呼ぶ

         [ 電話d ]
朝も午後もあなたは不在で
私のみた夢について
聞かせてあげることができない
九千五百七十回めの呼出音が
いまあなたの部屋にとどく
それともひょっとして
九千七百五十回めだったかしら
暮れなずむ海は
受話器のなかに満ちてきて
やがて私は潮騒となる
ただ揺れつづけるばかりならば
もはや眼も耳もいらない
やがてふたたび真夜中は訪れ
どこか低い空のあたり
ひとつ またピストルがひびく

詩集『リエゾン LIAISON』より No.21「電話(4-4 電話d)」

f:id:aoyamayuki:20200115071239j:image

「電話(4-4 電話d)」

朝も午後もあなたは不在で
私のみた夢について
聞かせてあげることができない
九千五百七十回めの呼出音が
いまあなたの部屋にとどく
それともひょっとして
九千七百五十回めだったかしら
暮れなずむ海は
受話器のなかに満ちてきて
やがて私は潮騒となる
ただ揺れつづけるばかりならば
もはや眼も耳もいらない
やがてふたたび真夜中は訪れ
どこか低い空のあたり
ひとつ またピストルがひびく

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術 #言葉 #創作

詩集『リエゾン LIAISON』より No.20「電話(4-3 電話c)」

f:id:aoyamayuki:20200114210242j:image

電話(4-3 電話c)

〈もしもし〉が
〈申します〉ではなく
〈もしかしたら〉
と聞こえる昼さがり
盲いた受話器の瞼の奥には
とびちる紅が貼りついて
〈もしもし〉
電話は追憶をたどりはじめる
いつまでもつづく呼出音は
どこへむかっているのだろう
そんなとき
電話も夢をみるのかもしれない
気づけばいつか混線していて
〈もしもし〉
遠くから知らない声が呼ぶ

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術 #言葉 #創作

詩集『リエゾン LIAISON』より No.19「電話(4-2 電話b)」

f:id:aoyamayuki:20200111090330j:image

電話(4-2 電話b)

あなたと別れた
そんな夢からめざめた朝
あなたの夢にみられている
かすかな不安に気づく
雨あがりの庭
吹きわたる風がほのかな青に
染まりはじめたからだろうか
どこまでが夢をみている私で
どこからがあなたの夢のなかか
このことについて誰が語れよう
よしのない物語を考えながら
昨晩の食事のお礼
ただそれだけのために
あなたの部屋の電話番号を
静かにまわしはじめる

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術

📃 お知らせ 📃 〈noteでの詩の紹介〉「電話(4-1 電話a)」

noteで詩を紹介しました 📄
#note

凍った空の低いあたり
今夜もいくつものあつい声が
ひとりからひとりへと駆ける
その綾のかげを ひっそり
さよなら
のさけびがとどく
あなたのすべてが声になって
たったいま
私の肩のうえに重く——
不意にとぎれた受話器から
発信音だけがつづいていて
胸の鼓動にかぶさってくる

f:id:aoyamayuki:20200110212200j:image

▶︎ note:https://note.mu/aoyamayuki

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術

詩集『リエゾン LIAISON』より No.18「電話(4-1 電話a)」

f:id:aoyamayuki:20200108210307j:image

電話(4-1 電話a)

凍った空の低いあたり
今夜もいくつものあつい声が
ひとりからひとりへと駆ける
その綾のかげを ひっそり
さよなら
のさけびがとどく
あなたのすべてが声になって
たったいま
私の肩のうえに重く——
不意にとぎれた受話器から
発信音だけがつづいていて
胸の鼓動にかぶさってくる
真夜中
月光に浮かぶポインセチア
私の鮮血がとびちる

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術

📃 お知らせ 📃 〈noteでの詩の紹介〉「卒業」

noteで詩を紹介しました 📄
#note

きょうの言葉はきょうのうちに
見えない風の粒々になって
いつか吹きぬけてゆくはずなのに
静まりかえった青に染められ
さよならの声がたちどまる

記念写真の隅で息をこらし
時計をとめてまばたきをする
すべてはその一瞬に
思い出という装いをはじめる
だからもう制服はいらない

誰もいないグランドに
ふと遠い喚声がこだまする
おもいがけなくよみがえるのは
あつい鼓動と
テニスボールの真新しい匂い

追憶とは忘れているものだ
想いだすときにはいつも
忘れていたということに気がつく
それはすこし恥ずかしいから
懐かしいなどとつぶやいてみる

f:id:aoyamayuki:20200108153712j:image

▶︎ note:https://note.mu/aoyamayuki

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術

詩集『リエゾン LIAISON』より No.17「卒業」

f:id:aoyamayuki:20200106165047j:image

卒業

きょうの言葉はきょうのうちに
見えない風の粒々になって
いつか吹きぬけてゆくはずなのに
静まりかえった青に染められ
さよならの声がたちどまる

記念写真の隅で息をこらし
時計をとめてまばたきをする
すべてはその一瞬に
思い出という装いをはじめる
だからもう制服はいらない

誰もいないグランドに
ふと遠い喚声がこだまする
おもいがけなくよみがえるのは
あつい鼓動と
テニスボールの真新しい匂い

追憶とは忘れているものだ
想いだすときにはいつも
忘れていたということに気がつく
それはすこし恥ずかしいから
懐かしいなどとつぶやいてみる

さしだすひとつの掌があり
うけとる確かなぬくもりがある
ひかりはこぼれあふれていて
まぶしさに瞳をとじるのではなく
見つめるまなざしこそがまぶしい

扉をあけてでてゆこうとすると
私の胸から白い炎が翔びたつ
高みでひとしきりきょうの風にゆれ
やがてはばたく翼のかたちで
どこまでも舞いつづける

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術

詩集『リエゾン LIAISON』より No.16 「種子」

f:id:aoyamayuki:20200105071333j:image

種子

かすかなうごめきのほかに
はじめてのいのちは
まだなにもかたろうとはしない
けれどもまもなくはじけて
ひらきこぼれあふれるのだ
あさが
そこここにみちてひろがり
みずのおもてをあざやかにながれて
あかるいさけびをあげはじめるときに

そのかたくとざされたまぶたに
そのにぎりしめたてのひらに
そのむねにそのうでに
そのやわらかなほほのうえに
その

そのいのちのおくにたったひとつのまぶしさ

このいのちのために
おおきなこえでうたをうたおうか
そらのあおさについてかたろうか
うちゅうのひびきをきいてみようか
しようかしようかなにをしようか

ひとがこっそりしんでゆくとき
ミサイルのばくはつはききたくない
おなかをすかせたこどもがいるのに
すきなひととくちづけはかわせない
たったひとくちのみずとひきかえに
こころをうりわたしてしまうことなんて
いのちはいつも
ただひとつのまぶしさだから

ひとつのいのちのよろこびが
ひとつのいのちのはげしさが
ひとつのいのちのかなしみが
ひとつのいのちのくるしみが
はかなさがときめきがいらだちがおどろきが
ひとつのいのちから
またあたらしいひとつのいのちへと
まぶしさとなって
とこしえに

いま
みずのおもてにひとしくつりあい
やがておとずれるかいかのことを
はなやかにゆめみてねむりつづける
ちいさないのち

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術

🎍 年末・年始 Special Week 7 🎍 〈未発表詩 4〉 📖 六月の鯨 📖

f:id:aoyamayuki:20191225144957j:image

六月の鯨

 

真夜中の電話ボックスに閉じこもって
六月の鯨は華やかな夢をみている
外れた受話器からこぼれる発信音を枕に
ガラスの向こうに敷きつめられた紫陽花と
どうにかしておしゃべりできないかと

「もしもし」不意に受話器が話しはじめる
白く濁った気泡がわずかに湧いただけなのに
呼びかけられた気がしたのかもしれない
それともたしかに聞こえたのだろうか
あまりにも鋭い聴細胞は錯覚すらも許さない

六月の鯨はほんのりと頬を染めたまま
いつまでも夢から覚める気配がない
雨と海との溶け合ったひとしずく
目頭から静かにこぼれ落ちたあと
やがて紫陽花の色の潮を吹こうとしている

#詩 #自由詩 #現代詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術

📃 お知らせ 📃 〈noteでの詩の紹介〉「通りゃんせ」

noteで詩を紹介しました 📄
#note

なぜいつも私のまわりだけ雨が降るのだろう
だれも傘をささないので私も濡れたまま歩く
強い風でびしょ濡れになることもあるけれど
悟られないようハンカチで前髪をそっと拭く
傘でなくレインコートでも着たらいいかしら

f:id:aoyamayuki:20200104140504j:image

▶︎ note:https://note.mu/aoyamayuki

#詩 #現代詩 #自由詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術

🎍 年末・年始 Special Week 6 🎍 〈未発表詩 3〉 📖 通りゃんせ 📖

f:id:aoyamayuki:20191220214832j:image

通りゃんせ

 

硝子のコップに小さなひび割れを見つけた朝
庭からかすかな鳥の囀りが聞こえた気がする
ありふれた一日の始まりにある僅かな違和感
ひょっとしたらこれは他人の記憶ではないか
私ではない私がこっそりのぞいているのかも

なぜいつも私のまわりだけ雨が降るのだろう
だれも傘をささないので私も濡れたまま歩く
強い風でびしょ濡れになることもあるけれど
悟られないようハンカチで前髪をそっと拭く
傘でなくレインコートでも着たらいいかしら

日常に潜む些細なずれを重ねて過ごすうちに
いつか私は私の知らない私へと変貌を遂げる
ここにいる私はどこへ行こうとしているのか
遠く静かに季節がうつりゆく気配がしている
呼ばれた気がして振り向いてもだれもいない

#詩 #自由詩 #現代詩 #詩人 #詩集 #文芸 #文学 #芸術